2011/03/21 早野教授クイズ2に挑戦

一昨日19日、twitter上で東大理物の早野教授(@hayano)が理系学生に課した問題(http://togetter.com/li/113650)に挑戦し、その回答を前回のエントリに書いた(http://d.hatena.ne.jp/ninjicarrot/20110319/1300547680)。

20日正午までに、27もの答案が集まり(http://www.twitlonger.com/show/9cf7cr)、現在、http://hiroshijp.com/?p=196において回答の投票が行われている。私の回答にも票は比較的たくさん集まっているが、中には私の間違った(理解不足な)答案にも票が集まってしまっている。また、地球物理学生への問題として提出された「天然放射線による被曝量が,その人が住んでいる地域によって異なる理由を,簡潔に答えなさい」という問題は、「天然放射線」の指す内容が多岐に渡る(宇宙線の被曝、地殻中の放射性物質壊変に伴う被曝、断層等から大気に放出されるラドンの影響、建材中の放射性物質の影響)ことから、模範解答は集まった回答の良い部分を集めて作るということになるだろう。

福島での原発問題を考える上で必要となる基礎的な知識を問う、今回のようなクイズ形式でのツイートが、その問題を解くことができる理系の学生・研究者のみならず、一般の人の関心をも集めたということはとても興味深い。しかし、理系の学生としては、純粋な学問的興味で終わってしまうのではなく、政府やマスコミが発信を続ける情報を科学的に検証・議論し、その結果を分かり易い形でまわりの人に伝えていくということが大事なのだと思う。しかし、それは能力的にとても難しい。ブログ等に発信するかどうかは別として、家族とか友達とかに分かり易く説明するだけでも、学生としての一定の役割を果たすことになるのではないか?

などということを考えていたら、早野教授から新たな問題が提出された。
http://togetter.com/li/114077

■問題1 
セシウム137→バリウム137のβ崩壊に関する(物理に興味がある方向けの)問題
図参照(http://plixi.com/p/85501302

■問題1への回答
1、反電子ニュートリノ
2、ダウンクオーク(d)
3、アップクオーク(u)
4、弱い相互作用
5、(この場合)負電荷をもつウィークボソン(W-)




■問題2
セシウム137→バリウム137のβγ崩壊に関する問題:この崩壊で出るβ線は物質を透過する能力が低く,γ線は透過力が強い.それはなぜか,簡潔に答えよ.

■問題2への回答
http://ie.lbl.gov/toi/nuclide.asp?iZA=550137
によると、Cs-137が発するガンマ線のエネルギーは661KeVであり、ベータ線のエネルギーは513KeVを上限とする分布を取る。
両者のエネルギーは大きく違わないが、ベータ線(電子)は荷電粒子であるため、物質の中を通り抜ける際に周囲の電子を励起しながら進むので早くエネルギーを失ってしまう。一方、ガンマ線(光子)は電荷を持たないためそのような作用は起こらず、比較的長距離を貫通する(661KeVなら鉛でも平均自由行程で5mm程度)。




■問題3
I-131(半減期8日)とCs-137(半減期30年),各々同数の原子核があったとき,そのベクレル値 Bq はどちらが大きいかを述べ,その比率を計算せよ.

■問題3への回答
1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1ベクレルである(Wikipedia)。
半減期8日のI-131と半減期30年のCs-137では、単位時間あたりに崩壊する原子の数は30year/8day=1370倍だけI-131の方が多い。よって、ベクレル値もI-131の方が1370倍高い。





■問題4
この図 http://plixi.com/p/85501302 の①の粒子は(正常に動いている)原子炉からも出ている.一方,①とよく似た粒子が太陽から飛んで来ている.それはなぜか,簡潔に述べよ.

■問題4への回答
太陽の内部では、水素燃焼などの核融合反応が起こっており、その過程でニュートリノが生成されるから。また、ニュートリノは貫通力が非常に高く、太陽の表面にある物質を通り抜け地球に到達できるから。




■問題5
文科省http://bit.ly/gefRsP で環境放射能水準を公表している,たとえば岡山県の過去の平常値の範囲は0.043〜0.104µSv/h,一方,沖縄県では 0.0133〜0.0575µSv/hと有意に低い.この主たる原因は何か.

■問題5への回答(自信が無い)
地質構造が影響していると思われる。
http://www3.starcat.ne.jp/~reslnote/A8_7.htm#12 によると、岡山県には、"Felsic Plutonic"(花崗岩)の領域が多く存在している。花崗岩はU,Thを豊富に含むため(http://www3.starcat.ne.jp/~reslnote/A8_8.htm#11)、岡山県での線量が高いのだと考えられる。




■問題6
【同じ個数の】X線γ線を比較した場合,人体への影響が大きいのはどちら?

■問題6への回答(これも自信があまりない)
X線であれガンマ線であれ、エネルギーの大きい方が人体への影響が大きい。

(理由)
1、
X線の波長は1pm〜10nm、ガンマ線の波長は10pm以下である。これはエネルギーに換算すると、およそ
X線:100eV〜1MeV
ガンマ線:100KeV以上
となる。まず、X線ガンマ線のエネルギーには、重複する領域があるため、X線であるかガンマ線であるかのみの情報でエネルギーの大小は判断できない。

2、
X線ガンマ線が人体に影響を与える理由は、それらが生体中の分子との間で光電効果を起こし、電子をはじき出すからである。はじき出された電子は、生体中の分子を電離しDNAの切断などの悪影響を引き起こす。電離される分子の数は、はじき出された電子のエネルギーに(およそ)比例し、はじきだされる電子のエネルギーはもともと入射したX線およびガンマ線のエネルギーと相関がある。よって、X線であれガンマ線であれ、エネルギーの大きい方が人体への影響が大きい。





■問題7
福島で放水作業にあたっておられる陸自の方々は,厚さ3ミリの鉛板入の防護服を着ているhttp://bit.ly/hHMSkg .①なぜ鉛か(易問).また,②3mmの鉛により放射線の影響を何分の1ぐらいに押さえられるかを概算せよ(難問)

■問題7への回答
1、密度が高く(電子密度が高い)、同じ体積でも効率よくβ線などの荷電粒子を抑えることができるため。
2、
Cs-137壊変によって生じるβ線ガンマ線を防ぐということを想定する。β線運動エネルギーの上限は513KeV、ガンマ線のエネルギーは661KeVである。

β線
今回考える低エネルギーのβ線が鉛中で起こす相互作用は主に電離で、電子対生成は起こさない。よって、放射長を用いた飛程の推定は行えない。上限エネルギーがEmax(MeV)のβ線の飛程R(g/cm2)は、

R = 0.407(Emax^1.38) (但し0.8> Emax > 0.15)

に従うという経験則がある。今回の場合は、R=0.16g/cm2である。これは、11g/cm3の密度を持つ鉛に換算すると、0.16/11=0.014cm=0.14mmに相当する。よって、3mmの鉛で十分に止めることができる(何分の1になるかという計算は行えず)。

ガンマ線
661KeVのガンマ線の平均自由行程はおよそ5g/cm2 = 4.5mm(鉛換算)である("Passage of particles through matter (rev.)",Particle Data GroupのFigure27.16を参照)。3mmの鉛では、exp(-3mm/4.5mm) 〜 50%のガンマ線が通り抜けてしまう。仮にガンマ線を1%にまで減らすことを考えると、平均自由行程の4.6倍つまり約20mmの鉛版が必要になる。




■感想

今回新たに早野教授から与えられた問題は、前回よりはるかに難しかった。
原発に放水活動を行う隊員が装備すべき鉛の厚さを求めるだけでも、私には現実的な時間で適切な答えを出せる自信が無い。現場では、非常に専門的な知識と経験が必要だろうということが想像できた。